緑の中に置かれたカフェ – 台北, 台湾
台北にはいくつか、個人的に平日に訪れてほしい場所があります。
理由は簡単で、休日はお客さんでごった返しているから。コンパクトな街ゆえ、人気のスポットには人が集中してしまいがちなのです。
今回紹介するカフェもそんな人気観光地の内部にあります。
台北の中心部で、その昔酒工場だった建物一帶をリノベーションしたアートスポット「華山1914文創園区」。Legacy Taipeiという台北随一のライブホールを擁しており、国内外から様々なアーティストを招いては夜な夜な音楽イベントが繰り広げられています。
園内の広い敷地に残っている古い建物は日本統治時代に建てられたもので、1987年までは実際に酒工場として使われていたとか。すでにその残り香を感じることはありませんが、石造りの建築群は殆どが当時の外観のまま保存されており、一見の価値ありです。蔦が一面に群生した倉庫、廃墟のような洋風建築や古びた廊下など、思わず写真を撮りたくなる場所だらけで、これも平日に訪れる方がいい理由の1つです。(他の人に邪魔されず思う存分撮影できるので)
今回訪れたのは、そんな建物たちの間にポツンと建てられた平屋のカフェ。
敷地内の小道はみっちりと熱帯樹木で埋められているのですが、その緑の中にひっそりと存在しています。 景色に馴染んでしまって目立たないので少し心配になってしまうほどですが(笑)、カフェってお客さんが少なければ少ないほどノンビリ寛げてしまうんですよね・・。
今回は平日の雨の降る中でしたので、殆どお客さんのいない中、存分に空間を楽しんできました。
しかもこの平屋、ファサードが大きなガラス窓になっていて、中から暖かい光が漏れ出ているときます。台湾のじっとりした雨の中でそんな光景を見てしまったら・・・もう入らずにはいられない。文字通り、吸い込まれてしまいました。
中に入ると、建物自体はコンクリートとプレハブのハイブリット的な造りであることがわかりました。
三角屋根の天井は鉄骨現しで3〜3.5mはありそう。おかげでスコーンと広い空間が保たれていて、席数は多めでも抜け感があります。
そこに天井まで続く広い窓と、そこから望む生き生きとした樹木たち。 まるで大樹の下にいるような、不思議に安らぐ感覚に包まれます。
この窓、ずっと景色が移り変わる巨大スクリーンみたいなもので、風を受けて常に揺れ動く樹木によって、空間に程よい動きが加わるなぁと思いました。 「空間に流れる時間を演出する」という意味で、少し音楽に似た役割を果たしている気がします。
天井からは、折り紙で折られた鳥を模したオブジェ兼照明が吊られていて、それとなく「森の中にいる気分」を演出していました。
店内奥には、ちょっと意外な席も用意されていました。 靴を脱いで上がる小上がり形式で、丸いちゃぶ台を囲むような感じ。 こちらもスクリーンのように大きい窓から、通りを挟んだ向こう側にある廃墟的建物を臨みます。
ちなみにちゃんと屋外のテラス席も用意されていて、こちらは本当に樹の下で寛げるタイプ。 天候が許せば、こちらも気持ちよさそうです!
樹々の揺らぎや珍しい廃墟チックな建物を横目に眺められる環境にものすごく惹かれただけに、今回はインテリア部分が少しだけ勿体なく感じてしまいました。 ナチュラル系の素材・色使いでまとまっていたのですが、スッキリしているものの、ちょっと無難な印象も否めず。 「こんなに素晴らしい環境と空間があるのだから、もっともっとオーナーさんの世界観を主張してくれたらいいのに・・!喜んで受け入れるのに・・!」と、筆者的には少し物足りなさを感じました。
リノベーション好きが一度は憧れる「天井が高くて、好きなテイストに染め放題の空間」。
色物柄物なんでも来い!全部受け止めてまとめあげてくれそうな懐の深い「箱」がここにありました。
カフェという誰もが入ることのできるスペースながら、運営する個人や団体の趣味・嗜好が色濃く反映される場所って、考えてみるとすごく興味深いなと思います。
知らない誰かが作った空間に共感できたり感動したり、好きになったりならなかったり。 好きなカフェに出会えた時の感覚って、気の合う友達を見つけた時に似ているかもしれません。
まだ見ぬ素敵空間を探して、世界スペース紀行は続きます。