退廃的に美しく、少し怖い, 上海 – 中国
こんにちは。どんよりとした冬が終わり、外出が気持ちいい気候が戻った上海です。コロナ影響でマスクなしには外に出られませんが、それでも春はいいものだと感じます。
さて、今回からまた上海で色んな場所を見ていきたいと思います。
以前こちらで紹介したカフェバーを覚えていらっしゃいますか。そのホテル部分が以来ずっと気になっていました。カフェ利用客はフロント以外立ち入れない作りになっていたのですが、そのほんの一部が格好良すぎて・・・。いつかホテル内部に潜入したいと密かに目論んでいたところ、先日機会をゲットしました。さぁ、ここぞとばかりにウォッチング開始していきましょう。
日本語サイトがないのですが、この建物、その見た目から元倉庫か工場かな?と想像していたところ、旧日本軍の総司令部だったことがわかりました。3階建てだった建物を4層に改造し、ホテルとしてリスタートしたのが2010年。中国の建築設計事務所によるデザインだそうですが、とてもクールな外観ですよね。(設計者にご興味がある方は「Neri&Hu」で検索を。)
まず、このホテルが戦争時代の遺構を活用し、増築を施したものである点に驚きました。上海は旧疎開地(フランス・アメリカ・日本等の国が共同租界権を持ち居留していた土地)があることから、居住用の旧建築を保存している例は溢れるほどに見かけるのですが、過去のものとはいえ軍用施設がさらりと商業利用に転じられているとは。(もちろんホテル内には戦争を含む歴史を語る表現物等はありません)
この建物が長い時を経て、単純にその格好良さで人の目に留まり残されたのであれば、空間を愛する1人としては歓迎せざるをえません。
しかしながら1930年代に建てられたというこの建物、今回内部を見て、リノベーション前は廃墟に近い状態だったのではないかと想像します。
ホテル内、共用部分の壁は昔の煉瓦造りが垣間見えたり、中には塗料が朽ち果てている場所も。もちろん敢えて残しているのでしょうが、一般的な宿泊サービス施設とは良くも悪くも一線を画す状態です。
増築部分はコンクリートのつなぎ目を堂々と見せてしまう大胆ぶり。「元の様子がわかる形で継ぎ足す」「隠さない」という明確な意思を感じさせます。
とはいえホテルとして利用するため、綺麗な箇所はとても綺麗でそのメリハリがまた面白い。
ボロボロで(失礼)ギザギザの旧建築に対して増設部分は直線的、
レンガとコンクリートのザラザラとした素材感に対して増設部分は真っ白。
余分な建具を排除して、ほとんど枠のないガラス扉や窓のつくり。
この明確な対比、ギャップがとても魅力的です。
また他のリノベーションホテルにはないな、と感じたのが、この建物が持つ「怖さ・陰鬱さ」みたいなものを隠さずそのままに出していることでした。
軍司令部だった建物はかなり入り組んだ作りになっており、全部で19部屋ある客室へのアクセスは中々に困難でした。建物内に(おそらく)3・4箇所階段が設けられているのですが、どれかを正確に使わないとたどり着けない客室がいくつか。階段の幾つかはきちんとフロントへつながりますが、中には繋がらないものも・・。まさに侵入者を撹乱させるため?という複雑な構造です。何度か行き来して理解しようとしたものの、遂ぞ正確な数と位置を把握できずに終了。暗く洞窟のような階段室は何とも言えない異様な空気で、これを「ウェルカムお客様!」と明るく楽しい雰囲気に塗り替えなかったことが、このホテルの特別な存在感に繋がっていると思います。
共用部分の異質さとは裏腹に、客室は至って過ごしやすいデザインコンシャスなホテルでした(ほっ)。上海の川沿いを望むラフな1R、といった感じでしょうか。豪華絢爛ではない分、日常と非日常がちょうど良い割合で顔を出すような、ちょっと住んでいる気分になれるようなお部屋でした。
客室内部で旧建物の要素が見えているのは壁1面のレンガのみで、その他は全てリノベーションで造作されていました。
「余計な装飾をしない」ことに気を遣ったと思われる箇所が多くあり、こういった小さな積み重ねが素敵な空間をつくると毎度実感させられます。
全然住める・・なんてことを思いながら部屋を眺めていました。(実際はこの立地で居住用なら一般人が住めるような値段ではないはずなので、妄想もいいところ)
いかがでしたか?上海に来てからリノベーション施設をいくつか訪れていますが、どこもその格好良さに驚かされます。実は他にも気になるレトロなホテルが数軒・・・これはまた次の課題にしたいと思います。
引き続き素敵な空間に出会っていきましょう。
それではまた、次のスペースで。