混沌の街の余白カフェ – 台北, 台湾

台湾からお届けする世界スペース紀行 Vol.2。

台湾の首都、台北市内には中山(ジョンシャン)という、日本人観光客が多く訪れるエリアがあります。地下鉄駅の真上に位置していて買い物の便が良く、日用品やバラマキ土産がお安く手に入るこのエリア。

今年、東京の日本橋COREDO内にオープンした誠品書店の南西店があったり、その横の三越百貨店では台湾を訪れる外国人が必ず食べるという鼎泰豊(ディンタイフォン)の小籠包を食べられたりするとあって、地元民や観光客がひっきりなしに訪れる人気エリアです。

そんな中山も、10分ほど歩いて路地の中に迷い込むとすっかり静まり返った住宅街に。 今回はこの静かなエリアでひっそり営業されているカフェを訪れました。

スッキリ全面ガラスのファサード。壁面にディスプレイされた沢山の本たちに、視線はつい店内に吸い込まれていきます。

古いビルの1・2階部分が改装され、物販店兼カフェとなっていました。 1階ではアートブックや小さな雑貨、2階は衣服や生活雑貨がディスプレイされ、お客さんがのんびり本やアイテムを手に取って眺めていました。

このカフェが立つ場所然り、私は台湾の建物が密集したような街並みがとても好きなのですが、おそらくそれは、そこに暮らす人々が出す「生活感」のせい。これは台湾にとどまらず中華圏の特徴でもあるのですが、彼らはあまり自分たちの生活を隠すことに(良い意味で)興味がないようです。

人々の生活が凝縮されたカオティック(混沌とした)な街並みは、台湾の日常風景。

道を歩いていると、家の中でテレビを点けて寛ぐ阿姨(アーイー/おばさん)の姿が見えるなんて日常茶飯事。こちらの人たちは台湾の蒸し暑い亜熱帯気候を受け入れていて、冬を除き、玄関から直接繋がるリビングはいつも外に向けて開放状態なのです。彼らのあまりにも平常モードな生活を目の当たりにすると、全然知らない人も何だか他人とは思えなってくるような、不思議な感覚。

そしてこのカフェは、そんな街並みにひっそり溶け込んでいます。面々と連なる古めかしいビルの1階部分で、決して存在を主張するわけでもなく、ただシンプルなネオンサインを掲げて。

この雲みたいなサインがこのカフェの看板。

1階はアート系写真集や作品集などが並ぶ書店。中国語がわからなくても視覚で楽しめるような本がたくさん陳列されていました。かといって日本の書店では探すことのできないようなテイストのものが置かれているので、中華圏のカルチャーをつまみ食いするにはもってこいです。

物静かな店員さんがさしてこちらに興味もなさそうにカウンターの中で座っていて、(結局こちらから声をかけない限り一切声をかけられず)気楽に本を眺めることができました。

 飲み物を頼んで会計を済ませると、2階にたくさん席があるので好きな席にどうぞ〜と店員さんが案内してくれ、階上へ。

この日は誰もいなかった。

2階は上手く元の建物を活かした、シンプルなリノベ空間となっていました。

昔の学校を思わせる、懐かしいセラミックタイルの床はおそらく元あったものをそのまま再利用。建物奥の吹き抜けに繋がる窓もそのままに、窓枠だけを黒サッシに交換した様子でした。本来は建物の奥まった箇所に明かりとりをするための吹き抜けだと思いますが、さりげなく他の住戸の存在を意識させる装置になっていますね。

「ここは一体どんな形状の建物で、どんな住戸割りになっているの?」そんな疑問を感じ得ないような、いびつな五角形の吹き抜け。ここから建物全体の形を想像するのも楽しい。
降り注ぐ光が眩しくて、照らし出された古ビルが何ともノスタルジックな表情に。

ビル正面側の大きな窓も、大部分を同じ黒のサッシに交換しつつ、一部は古いアンティークガラスを残した可愛らしい仕様になっていました。

大きな開口部が気持ちいい窓際の席。
新旧素材が掛け合わさった違和感を楽しむのも、リノベの醍醐味ですね。

空間自体はとてもシンプルなもので、木材をメインとしたテーブルやディスプレイ棚、カウンターなどは基本的にすべて造作したように見受けられます。

ちょっと荒削りにしたFound MUJIみたいな。
本を置いたり食器を飾ったり、同じものが家にあっても楽しめそうな陳列棚。

反対側の壁には、ちょっと高めの位置にカウンターが据え付けられていました。絵を飾ったり本を置いたり、スタンドデスクとしても使えそう。そんなに奥行きも取らないし、こういうスペースが家にあったらいいかもしれないな〜などと本気で検討してしまいました。

ディスプレイ棚と作業カウンター、どちらとしても使えそうな奥行きの妙。荷物掛けのフックもさりげなく便利そう。
造作家具といえば、紙ものを納めた浅めの引き出しも。荒削りな素材も線の細いライトで繊細さをプラスすると、良い具合にメリハリがききますね。

居場所のバラエティが豊かなのもよかったです。窓際に陣取るか、長テーブルを広々使うか、カウンターにするか・・・その時の気分で変えられるって、ちょっとした楽しみにつながりますよね。

伝え忘れていましたが、ここにセレクトされている商品たちもなかなかに素敵でした。空間自体はシンプルなリノベーションなので良い意味で「美しすぎず」、陳列されているモノたちも多少テイストのバラつきがあるけど、この空間はすっかりそれを許容していました。(ちなみにすっかりこの空間の罠にハマった私は、気づいたら2点も雑貨を購入していました)

建物や人が混み入ったこの街に、するりと紛れ込んだ「余白」を思わせるカフェでした。

窓際の席を選びました。