内省させる博物館, 上海 – 中国
こんにちは。1月に入り、恐れていた季節がやってきました。このところ上海の空気は酷いもの・・・窓の外は連日、白いモヤがかかった状態。加えて曇天に小雨の降り続く日々に、朝からライトを点けることが当たり前になってしまいました。北欧の人に様に、屋内で楽しく過ごす工夫の必要性を(事情は違えど)切実に感じています。
ということであまり外歩きを楽しめない日々なので、ちょこちょこと屋内施設をパトロール中です。先日は前から気になっていた博物館を訪れてみました。
上海当代芸術博物館は、以前ご紹介した上海の河畔エリアにある美術館・博物館系施設の1つです。日本でも人気のteamLab Boderlessが隣接していることもあり週末は活気のあるエリアですが、平日は人も少なく平和そのもの。多くのアート施設同様こちらも産業遺構を利用したリノベーション建築で、元発電所だった建物を上海万博(2010)で「都市未来館」として使用した後、2012年に芸術博物館として再オープンしたそう。
河畔、且つ元発電所建築を利用している共通項からか、ロンドンのテートモダンが思い出されました。元の用途が同じであることから、建物の構造や規模感が似ているのかもしれません。外壁の材質は両者全く異なりますが、どこか要塞の様で建物前に立つと威圧される感覚は、テートモダンを前にした時に感じたものでした。
灰色の巨大な建物はクールさもあり威圧的でもあり・・。個人的には美術館や博物館には気持ちを落ち着けて入りたい派なので、少し気圧されるこの感覚は割と好きです。
外部の威圧感をくぐり抜けて入った内部の広さにまたひと驚き。5階部分まで吹き抜けになった薄暗いホールにいきなり迷い込みます。大きな闇に飲まれたような気分になりながらチケットを購入し、フラフラと内部を探索し始めました。
展示の半分ほどは無料解放で、その部分を楽しむ人たちも多かった様です。チケットが必要な箇所はクローズドな一部のみとなっており、大半は自由に見て回ることができる様になっていました。
発電所時代の作りは不明ですが、中央の巨大空間をメインフロアと設定し、そこにスキップフロアで2階を作り階層をつなぐ階段やエスカレーターが交差するという、大胆な設計になっていました。
大きな箱に必要な要素と機能をポイポイ入れただけ、のようにも見えましたが、展示のために潤沢な空間を確保し、且つ元発電所の特徴が活かされるためにも、過剰な手直しは不要だったのでしょう。
作品の展示方法に関しても同様で、技巧的だったり派手な演出はなく、但し十分な空白があることを理解した上でそれを活かすという確信犯的な印象を受けました。
空間の中に箱を置いたような展示スペースは、「スペースそのものが展示物」のようでした。それを意識してか、展示物を入れて輸送してきた木箱までをも展示する、というユーモアも。
空間の大きさや天井の高さを生かした浮遊感のある展示も所々に見かけました。
展示自体の内容はもちろん重要ですが、「どう展示されるか」も見る側に大きく影響します。空間にふわりと漂う作品や製作映像に足を止める人も多くいました。
ここにいる間、なぜか少し内省的になってしまいました。作品を見ているようでいて、ふと気づくと自分について振り返っていたり。日常の気ぜわしさとは真逆の、余白だらけの大空間がそうさせるのかもしれません。同じ様にじっくりと作品を見続ける人も少なくなく、作品鑑賞を超えて純粋な個々人の時間が流れていました。
また、この博物館には導線というものがありませんでした。特段必要ないようにゾーニングされたのか、順路標識的なものがなく(階数と展示紹介のみ)、またよくある立ち入り禁止区域のようなものも見かけないため、基本的にどこまでも回覧することが可能。先まで行けるけど、行ったところで何もないような場所も、そのままにされています。
発電所という旧用途によって発生した「意味のない空間」もそこここに残っていました。そして、点々と存在するその「グレーな余白」とでもいうべきスペースに歩み寄って行く人が多かったのが印象的でした。
「誰もいなさそう、でも行ってみると何かあるかもしれない」場所に足を踏み入れたくなる気持ちって、多分皆が持ち合わせている気がします。そういった「不確実性」「ゆらぎ」みたいなものを随所に見せて惹きつける、空間ごとを楽しませる博物館でした。
展示内容が何であろうと行きたいと思える美術館・博物館の1つに(個人的に)カウントしました。少し日常を離れたい時にお勧めできます。
では、また別のスペースで。