「何をするか、そしてしないか」, 上海 – 中国
12月。気持ち良い青空の秋は終わり、上海の冬が始まりました。あまり空気が良くない少し憂鬱な季節です。
こちらの生活に慣れ始め、(やろうと思えば)全てが家の中で、もっと言えばスマホ内で完結することを実感しています。指一本で何でも手に入る世界では、外出の意義が変わっていきそうだなぁと感じます。
カフェラテ1杯から、もしくは外食でしか味わえなかった美食が指一本で(且つ殆ど無料で)宅配されてしまうと、更なる付加価値がない限り人はお店に出向かなくなります。(誰かと過ごしたい、素敵な空間で楽しい気分を得たいなど。)
[食べ物を得る]という人間活動の基礎的課題がデリバリーによって解決されると、人々の暮らしに結構大きな変化が訪れそうです。外出の意義は今後、人に会ったり自然を楽しんだり、より純粋に人生の時間を充実させるための行為に寄っていくのかもしれません。それでも私たちが”その時・現地”でしか得られない生の情報や感情を獲得することに喜びを見出す生き物であることは、恐らく変わらないでしょう。
便利な時代のツールを享受しつつ、そこに生まれる自由時間をどう使うか。誰もが考える時代になるのだと思います。
さて前置きが長くなりましたが、今回は上海の中心部から少し離れた場所にある芸術区内のカフェを取り上げます。前々回の記事で「上海の観光地はどこに行っても人だらけ」といった内容のことを書きましたが、ここはアクセスがあまり良くないことが幸いして(?)、週末にもかかわらず程よい人出。 スポット全体も面白かったので、また改めて紹介したいと思います。
1990年代まで繊維工場だった敷地一帯を再利用しているのですが、建物が無骨で味わい深く、文字通りインダストリアル(工業的)。今回訪れたカフェも、外から見るとただの巨大な箱でした。但し大きく開かれた入り口から、ちょっと衝撃的な画が見えて・・・
そして隣にカフェ。 大きな箱の半分をギャラリー、残りがカフェになったスペースでした。
このユニークな空間構成に一瞬で心奪われました。入って左半分はシンプルな塗装を施しただけのギャラリースペース。
右半分はロフト形式のカフェ。1階部分はキッチンとカウンター席、2階はテーブル席でした。
目につくのは何と言ってもフロアの構成ではないでしょうか。繊維工場時代の構造をそのまま利用しているのだと思われますが、空間のちょうど真ん中あたりに太いV字の筋交いが渡り、そこに突き刺すような形で2階の床が存在しています。強度上の理由か、はたまた用途上必要だったのかは不明。これをそのまま活かす形でカフェ空間に。
1階奥にレジとキッチン。空間を横(縦)切る筋交いの存在感が大きい為、後から追加する素材が気になりますが、シンプルなステンレスを選ぶことで、素材感どうし上手く添い遂げている感じ。カウンター/バーチェア /階段手摺と、全てステンレスでまとめていました。
ちなみにここで使用されている彩色はスカイブルーのみで、他は素材の色(もしくはそれに近い無彩色のグレー・白)しか使われていない点にも注目。お店のシンボルカラーをきっちり打ち出すことで、シンプルながら印象的な空間になっていると感じました。
1階・2階とも、壁面にせり出した柱に溝を掘り、板を渡す形でディスプレイ棚を造作。極力素材を追加せず機能を追加している点を見ると[より少ない要素であること]を優先していると感じます。
床を支える根太に沿って取り付けた極細の蛍光灯や階段手摺にもこだわりを感じます。木の無骨さとは対極の繊細さが持ち込まれ、グッと洗練されたイメージに。
2階カウンターテーブルは、筋交いに渡された梁をそのまま利用していました。
フロア席のテーブル/椅子は色合いで統一感を出しつつ、カジュアルさを感じさせるフォルムでした。
工場時代の「そのまま」を生かしていた窓まわり。
例えるなら素材の良さを活かし程よく味付けした料理、でしょうか。味の付け方も程度も抑制が効いて、まさに”いい塩梅”。主張しすぎず、十分に洗練されたその空間は長時間眺めてなお飽きない良さがありました。
こういった「手加減」のようなものを意識していくことは、空間づくりにおいて(他の色んな物事においても)とても重要であること。そして「何をやるか」と同時に「何をやらないか」を決めているからこそ、よりよいアウトプットがなされるのだと実感する空間でした。
それでは、また別のスペースで会いましょう!